馬の化け物
「トレーナーさん!今日のメニューを教えてください。」
まさにこれはデジャヴ。いや、デジャヴというにはあまりに鮮明すぎる光景であった。
毎日繰り返される光景には、ノイズの入る余地がない程の飽きが付き纏う。
自分は何故この光景を拝みに行くのか……?ルーティンとして埋め込まれた習慣は、神経、シナプスのその先まで絡みつき、簡単には抜け出せない。
私が、その者共に出会ったのは約5か月前。
朝、私はいつもの屎尿プログラムを終え、スマートフォンに手をかけた。すると、頭頂部が急に熱くなってきた。なんだっそら、耐えられない!とスマホを床に落とした。
暫く、その異常事態と格闘を続け、スマホを拾い上げた。
時刻は10時を回っていた。
拾い上げたスマホの画面には、大手SNSアプリの青い鳥が羽ばたいており、意識世界から現実世界へ出勤し始めた人で溢れていた。
「おはよう~」
「起きました笑」
「今、起きたw」
毎日経験することを特別な出来事であるように思い思いに呟く。これを見ると、昨日から今日へ、さらに未来への成長を拒んだ人類の多さに飽き飽きしてしまい、朝からテンション1割減である。
しかし、その日は少しスパイスが効いていた。有象無象の呟きに埋もれながらも、その存在感を示す呟きが混じっていたのだ。
「ウマ娘プリティーダービー……?!」
新緑のような新鮮さがそこにはあった。
もちろん、全く知らないコンテンツではなかった。
2年ほど前に1期のアニメを1話だけ見ていた。
当時の私は、アイドルもののアニメとは無縁の存在であった。
「仲間となら頑張れる!」
「みんな大好き!」
「努力すれば何とかなる!」
私が『偶像三箇条』と呼ぶこの三つは、私の肌に合わないアニメ全般に当てはまるが、特にアイドルものはこの三つを抜けなく履修している。
2年前の私は、ウマ娘プリティーダービーを1話の時点でアイドルものとしてカテゴライズして、履修を辞退したわけだ。しかし、イドラ的判断は時に残酷なものであり、ウマ娘は、この時一大ムーブメントであった。
私の判断は、間違っていた。いや、ここから間違え始めた。
すぐにDMM版ウマ娘をダウンロード。世に蔓延る、己の劣情を4-2足歩行の生物に託す者たちの仲間入りを果たした。そこからは、元来の凝り性である性格が合わさり、強いウマ娘を作ることに没頭していた。
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そして、現在。
下手に手を加えたせいで、手放すことは容易ではない。
愛情無き今、形骸化した習慣はただ得るものなく自分の時間を貪り食う。
新たな怪物の誕生である